森の中で




ある晴れた日。町外れの森の奥にある池で、見習い天使の少女ポエットは泳ぎの特訓をしていた。


ポエット「はぅ〜。こわいよぅ…。」

加藤さん「だめだよポエット。浮き輪なしで練習しないと、いつまでも泳げるようにならないよ。」

ポエット「それはわかってるけど…、ウキワがないとおぼれちゃうよぅ。」

加藤さん「…しょうがないなぁ。じゃあ今日は浅いところで練習しようか。」

ポエット「うん!えへへへ。おさかなさぁん、ポエット、バタ足じょうず?」

加藤さん「うん、上手だよ。」

ポエット「わーい!」


ある風の強い日に、空から落ちてきたポエット。この池でおぼれているポエットを助けたのが、お魚さんたち。それがポエットとお魚さんたちとの最初の出会いだった。 ポエットは、とっても優しくて良い子なので、お魚さんともすぐに仲良くなることが出来た。
ポエットにとって、こちらの世界での初めてのお友達。その日から、ポエットは毎日のようにお魚さんに会いに行った。雨の日も、風の日も。雪の日さえも。 お魚さんも、毎日会いに来てくれるポエットために、何か役に立てる事はないかと考えた。そして、泳げるようになりたいというポエットの願いをかなえるため、毎日泳ぎを教る事になったのだ。そろそろ浮き輪をとって練習したいところだったが、怖がるポエットを見ていると無理して練習する事は出来なかった。

ポエットの笑顔を見ていると、どこか暖かい気持ちになれる、そんなお魚さん。もしポエットが大人になって、泳げるようになったら、もう来てくれなくなってしまうのだろうか。天界に帰ってしまうのだろうか。 そう思うと、複雑な気持ちになるお魚さんだった。


ポエット「どうしたの?悩み事??」

加藤さん「え?」

ポエット「なんかムツカシイお顔してたから。」

加藤さん「そう?そんなことないよ!」

ポエット「なんか悩み事あったら言ってね!ポエットとお魚さんは、これからもずーっとお友達なんだから!」

加藤さん「ありがとう、ポエット。」

ポエット「えへへ。」


思い違いかもしれない。この優しい少女はそんな悩みも吹き飛ばしてくれる。しかし、だからこそ、その時が来るのが怖かった。

そこへ、不意に聞こえてくる足音。ポエットとお魚さんは、一瞬ビクッとしたが、その足音の正体は、ポエットにはとても見覚えのある人物だった。


ポエット「あ、王子さま!」

ヘンリー「あれ?その声は…ポエット!?どうしてこんなところに??」

ポエット「それはこっちのせりふだよぉ!なんで王子さまが地上にいるの??」

加藤さん「お友達?」

ポエット「お友達…っていうのかなぁ。ポエットの故郷ホワイトランドの王子さまだよ!」

加藤さん「そ、そうなんだ。」


ホワイトランドの王子さまヘンリーは、よくお城を抜け出しては地上にやってきて、面白いことを探しているらしい。でも寂しくなってすぐにお城に帰ってしまうようだ。
ポエットは池から上がり、お魚さんにとお別れをした後、濡れた身体を拭いてから、二人で大きな木の下に並んで腰を下ろした。

お魚さんは、笑顔でまたねと言ってくれるポエットを見送り、池の中へと帰っていった。


ヘンリー「ポエットは、天使になるための修行かぁ。大変だね。」

ポエット「うん、たしかに大変だけど、そのぶんいいコトいーっぱいあるから、まいにちが楽しいの。ホワイトランドはどう?」

ヘンリー「なんにも変わってないよ〜。あったかくって、毎日が平和さ。」

ポエット「そっか、良かった。」

ヘンリー「ポエットはいつ戻ってくるの?」

ポエット「まだしばらくはこっちの世界で修行しなきゃ!ママには大きくなったポエットを見てびっくりしてもらうんだ!」

ヘンリー「ポエットが大きくなるのかぁ。なんだか想像出来ないな!」

ポエット「おっきくなるんだもん!王子さまだって、いつかは大きくなるんでしょ??」

ヘンリー「なるのかなぁ。ぼく、おっきくなったら遊べなくなっちゃうからいやだなぁ。」

ポエット「え?おっきくなったら遊べなくなっちゃうの!?」

ヘンリー「だって、お父様は全然遊んでないもん。」

ポエット「お父さまはお父さま!王子さまは王子さまだよ!おっきくなったって遊べばいいじゃん!」

ヘンリー「そうかぁ、そうだよね!」

ポエット「ポエットも、ママみたいにおっきな天使さまになりたい!でも、たのしい気持ちは忘れたくないもん。」

ヘンリー「うん!そう言われたら、なんだかおっきくなりたくなってきちゃった!」

ポエット「ポエット負けないよ!」


二人は、会話に夢中になり、いつしか二人して眠ってしまった。二人の寝顔は、とっても幸せそうだった。

数時間が経ち、カラスの鳴き声でヘンリーが目を覚ます。


ヘンリー「うーん…。あ、あれ?いつの間にか寝ちゃったんだ…。あ、ポエット!」

ポエット「うみゅ…。王子さま…。」

ヘンリー「こんなところで寝てたら風邪ひいちゃうよ。」

ポエット「あ、そうだね…。」

ヘンリー「でも、ひさしぶりだなぁ。だれかとこんなにお話しするの。」

ポエット「王子さま。」

ヘンリー「あっ!そういえば、もうこんな時間!お城に帰らなきゃ!!ごめんね、ポエット。」

ポエット「ううん、ポエットも楽しかったよ!」

ヘンリー「ポエットと一緒にいれば、もっと楽しいコト見つけられるかなぁ?」

ポエット「うん、そうかもしれないね!」

ヘンリー「でも、やっぱりお城に帰らないと寂しくなっちゃうなぁ…。」

ポエット「お父さまとお母さまも心配するもんね。」

ヘンリー「今日はもう帰るけど、また今度遊びに来るね!その時は、一緒に楽しいコト見つけに行こう!!」

ポエット「うん!じゃあね、王子さま!今日はありがとう!」


ポエットはヘンリーを見送る。

気が付くと、すでに夕焼けの空に照らされるポエットの姿は、どことなく大人びいていた。




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